「プロだったときのことも、聞いていいですか?」

「いいよ」

「先生は、どうしてプロバスケへ行こうと思ったんですか?」

 難しい質問だなぁと顎を撫でながら先生が答えてくれる。

「プロで食っていこうと思う転機がこれっていうのは無かったかもしれないけれど、憧れの選手がいたのがいちばんかも。漠然と一本の夢でもあったからな。やるからにはプロ、みたいな」

「先生、たしか出身はこっちじゃないんですよね」

「ああ。ほかのチームでちょっとやってて、それから仙台に来た」

「それからずっと仙スパにいたんですか?」

 先生は頷く。移籍の話が無いわけではなかっただろうけれど。

「縁あって仙台のチームにいて、選手生活と送ることができて幸せだったよ」

 遠くを見るように言う小谷先生の様子から、充実していたのだろうなと分かる。

「まぁ、もっと長くできたのに、怪我してしまって。それも運命だが」

 先生は、わたしを見て少し考えた様子のあと、言葉を続けた。

「震災をな、乗り越えてチームも強くなって、凄いなって思ったよ。バスケに携わる仕事でチームに残ることも考えたんだけど、教師の夢もあったからな。こっちに来たよ」

 知らない世界で、想像もできない苦労もあっただろう

「考えたら先生ってふたつも夢を叶えて、すごいんですね」

小谷先生は腕組みをして誇らしげに鼻を鳴らした。

「叶えることは凄いし、よくやったと自分を褒めたいよな。結果が大事なこともあるかもしれない。でも、そのためにがんばることも尊いと、俺は思うね。がんばる過程も大事。それについてきた結果を、受け入れることに意味があって、それが成長なんだよ」

 プロバスケ選手で培った経験を、教師と部活動顧問という立場に活かせるって凄いな。言うと調子に乗りそうだから黙っているけれど。

 わたしが作ったキーホルダーを見て『これでがんばれる』って言った和泉くんを思う。