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教室の窓が切り取る4月の空は、気持ちよく晴れ渡っており、千切れたような雲が浮かんでいた。
教室内は放課後の開放的な空気を充満させていて、帰りにどこへ行こうだの、部活に行くだの、あちこちから元気な声が聞こえてくる。
”海の見える校舎”と称されることもある、海英高校。宮城県の海沿い、太平洋を望む高台に建つ学校だ。
長い坂を登った場所にあるために”心臓破り校”という不名誉なあだ名もある。
べつに、心臓は破れないし、生徒はみんな元気に登校している。(と思う)
教室中、放課後の浮かれ具合はあちこち伝染する。
「まふ、麻文!」
「え、あ」
「またぼんやりして。もう授業終わったよ」
天パのわたしとは正反対、黒髪美少女である友達の亜弥が、机にキャラメルをバラバラと撒きながら前の席に後ろ向きに座った。普通のやつ、メロンにチョコ、イチゴ。
キャラメルを入れていたのは、手のひらサイズのポーチ。
学力も体力も人並み、なんの取り柄も無いわたしが唯一持つ手芸の能力を発揮して、亜弥に作ってあげたもの。使ってくれているのを見るだけで幸せな気持ちになる。
そっか。今日も1日終わったか。
「亜弥、キャラメルの置き方が乱暴……」
「好きなの食べていいよ」
ばら撒かれたキャラメルを机の中央に集めて、選んだ。
友達の亜弥は、くっきりとした二重瞼に輝く瞳。ああ眩しい。しかも、名家のお嬢様なのだ。それなのに、鼻にかけないし、サバサバした性格が好きだ。そのおかげでずっと仲のいい友達でいられるのだと思う。
わたしとしても、亜弥がお嬢様だろうがなんだろうが、好きだし、言いたいことを言える友達だと思っている。
「大丈夫? わたしのこと見えているかな。みんな」
「は? どうした、まふ」
「亜弥の相変わらずなキラキラお嬢様美少女オーラでわたしが霞む」
「なに言ってるの……ゆるふわ癒し系の権化が」
「やだ。難しい言葉を使わないで」
わたしが抗議すると、亜弥は口を尖らせた。
「あ、俺も食べたい」
長い腕が後ろからにゅっと伸びてきて、キャラメルをひとつ取っていった。
「タロちゃん」
藤野太郎、通称タロちゃんは、小さい頃からバスケをしていて背が高くて格好いい。自慢の友人である。
亜弥といいタロちゃんといい、わたしには美形しか寄ってこない呪いでもあるのだろうか。