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 待ち遠しい気持ちが振り切れると、人間は過度に動くのだなと実感した。

 日曜日、朝から掃除と洗濯を手伝い、買い物と夕飯の支度も自ら買って出て、お母さんに気持ち悪がられた。「いつもは、学校が休みだと内臓も停止しているのに」って。
 いつも休んでいたはずなのに動いたおかげで、少々疲れ気味の月曜日。

「なに、で? 今日、約束しているの? 天田和泉と」

 黒髪美少女が正面で頬杖をついてわたしを見ている。

「ちょっと亜弥さま本当にフルネームで呼ぶのはやめて」

 月曜日の昼休みはかったるい。休みに遊び過ぎて疲れた空気を、生徒が吐き出しているからだと思う。それに自分も入るのだけれど。
 亜弥が、和泉くんをフルネームで呼ぶものだから、思わずまわりを見てしまう。

「誰も聞いてないでしょ」

「細心の注意を払わないと」

「なんの注意よ」

「だって、ほかの女子の目にあまり触れて欲しくない。触れて欲しくないっていうか見えないで欲しい」

 そうなの。見ないで欲しい。透明でいいし、わたしにだけ見えていればいい。

「まふ、歪んでいる」

「放っておいてください」

「で、約束しているの?」

「い、いいから。してないよ……」

 答えると、亜弥はにやりと笑って紙パックの牛乳を飲んだ。

「また物陰から見ていようと思っていたのに」

「もう……亜弥だって自分のこと考えなよ」

「わたしのことをはいいの。まふのこと応援しているよ」

 そう微笑まれて、亜弥の気持ちが嬉しかった。頷いてその嬉しさをお昼ごはんと一緒に味わう。

 わたしは、サンドイッチの残りを口に放り込んで、ウーロン茶で流し込んだ。タマゴサンドだったのだが、その具が手についてしまい、においを発しているのが気になる。

「手、洗ってくるね」

 そう言って、トイレに立った。

 キーホルダー、いつ渡しに行こうかな。
 呼び出すのは畏れ多い。悩みすぎてどうしていいのか分からない。もう、こういうことは本当にどうしたらいいのか分からないんだけれど。