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 帰宅して、お母さんから紙袋を受け取った。部品は小さいはずなのに、袋が膨らんでいる。

「ありがとね! ……なんか入ってる?」

「手芸店に行ってみたら、端切れセールやっていたから、ついでに。プレゼント」

「嬉しい~」

 あれこれ作りたくなっちゃうな。

「ヒートンはそれでいい?」

 中身を確認すると、たしかに端切れだ。和柄のものと無地、チェック柄もある。これでまた色々と作ることができるなぁ。部品もしっかり入っていた。

「うん。ありがとう」

 夕飯を食べてから、部屋で続きをすることにした。
 買ってきて貰った部品を本体部分に使って、ストラップを装着。糸が出ていないかチェックをした。

「よし。完成」

 ブラウンのバスケットボールにブルーの糸で名前ステッチ。我ながら上出来である。
 早く渡したいなぁ。

 キーホルダーが汚れないようにビニールにくるんでおく。机から離れてベッドに行った。
 完成させた達成感と、和泉くんのことを考えるドキドキ感で頭がふわふわする。

 そういえば、普通に週末で学校が休みだというのに「また明日」なんて言ってしまったから、訂正しないと。部活はあるのかもしれないけれど、そこに押しかけるわけにもいかないし。

 携帯を取り出して、和泉くんにメッセージを入れることにする。文章を何度も直した。みんな、こういう時ってどんな風にしているんだろう。亜弥に聞けばよかった。恋愛経験が豊富だということではなく、わたしよりも色々知っているから。

 と、そんなことを考えている場合ではない。とにかく、誤字脱字に気を付けて『キーホルダー完成しました。明日って言ったけれど、休みだったね。来週にします』と可愛くもなんともない文章を作った。そして、震える指で送信する。

「はぁぁああ」

 ため息とうめき声が混ざったものが出てしまう。枕に顔をうずめて呼吸を止めた。
 すると突然、携帯が鳴った。

 和泉くんから返事が来た。返事が。和泉くんから。和泉くんから! ちょっと待って。心の準備が出来ていない。出来ていないけれどメッセージを見たい。戸惑う乙女心は忙しい。
 深呼吸をして、そっと画面を見た。

『ありがとう。楽しみにしています。また来週』

 たったそれだけ。けれど、嬉しかった。わたしが送った文章に負けず劣らず普通文面だったけれど、嬉しくて仕方なくて、なにをどうしていいのか分からず、枕を殴った。

 なんだかちょっと怖い。わたしの中で妄想でしか生きていなかった和泉くんが、こうして近くに感じる。
 机に戻ってまたキーホルダーを手に取る。これを和泉くんが使ってくれるのか。
 天にも昇る気持ちって、こんな感じなのかな。