不審に思って咲桜の視線の先を見る。


そこには、着物姿の朝間箏子が玄関を開けて出るところだった。


咲桜を見て、それから気づいたように俺の方も見て来た。


こちらからお辞儀をすると、箏子は優美な動作で礼を返して来た。


こんな時間にどうしたんだろうと瞳を離せないでいると、箏子さんは咲桜の方に歩いていき、何か厚い紙のようなものを渡している。


届け物? 咲桜はそれを受け取って、九十度に頭を下げた。


声までは聞こえないが、箏子さんも早く家に入るように言ったのか、咲桜はもう振り返らずに扉に消えた。


箏子さんはまた俺を見て――先ほどよりは軽い礼をして、朝間の家に入って行った。
 

――敵を見る眼差し、だった。経験上、そういったものを目にする機会が多かったからわかる。


箏子さんも朝間先生同様、俺を敵対視しているのか。


違う。――箏子さんと朝間先生の瞳は重ならない。


朝間先生は咲桜溺愛のあまり、奪っていく俺を敵視している。


俺を見て来た箏子さんの瞳は、異質なものを見る瞳だった。


「………」
 

咲桜が、近所の人に疎まれていると辛そうに言葉したことがある。


前後の話の中に消えてしまったけれど、その折箏子さんの名を口にしていた。


「―――」
 

咲桜。お前は、そこにいて大丈夫なのか? ――……咲桜?