『その前にやらんといけないことが山ほどあんだろ』
 

全員に、同じように答えた。


蒼と衛は、虚を衝かれたような顔をしていたが、それ以上問い詰めてはこなかった。


斎月に至っては、『なら、手をつけるときはちゃんと私を巻き込めよ』と言われた。
 

うちの事件は、俺にとってはその程度に認識でしかなかった。
 

神宮美流子は生死が確認されておらず、探すべき失踪者ではあった。


まあ、血縁に縁の薄いために、たまに「きょうだい」とはどういうものなんだろう、と考えたことはあった。


よくわからなかった。


そしたらいつの間にか弟が出来ていた。
 

――でも今は、それ以上の存在があって。
 

咲桜が特別な理由は単純で、どうしてか咲桜だけに感情が動くからだった。


理由は知らない。
 

咲桜だけが色んな感情を、俺に教えてくれる。


『咲桜』と出逢ってから、旧知によく言われるようになった言葉がある。


『流夜が無表情以外のカオしてるの初めて見た』
 

――その言葉だけで、咲桜が俺に与えた影響のほどが知れる。
 

まだ、たまに傷付いた瞳をする眼差し。
 

いい加減抱きしめたままでいたいから、こちらを向かせたい。