窓から華麗に出て行った吹雪さんを見送ると、夜々さんたちが戻って来た。


「猫柳って……龍生さんの苗字、ですよね?」


私はまだ、先輩が話した事態が呑み込めずに問う。


「うん。二宮さん……龍生さんの、養子にならないかって、言われた」


「養子? えっと、二宮……じゃなくて、本名の、猫柳のってことは、龍生さんの息子に? なるの?」
 

笑満が確認するように言うと、先輩はゆっくり肯いた。


「そういうこと。龍生さん、やっぱり……光子さん以外とは結婚するつもりないみたいで、『ここも後継者いなから』って。……俺も親戚とは断絶してるから、俺が養子に入ることは問題ないんだ」


「……問題ない、ってことは、先輩の気持ちはもう傾いてるの?」


「うん。龍生さんのとこで暮らした一年ちょっとは、本当勉強になることばかりだった。だから、俺はむしろそれを――……望んでいたのかも、しれない。ただ、こんな重大なこと、自分から願い出ることは……出来ていなかったけど」