「………」
思わず顔が上向いた。すると手が離され、今度は両頬を包まれた。
「桃子さんは、咲桜と在義さんのために必死に生きた。だから、俺たちの関係の中から、桃子さんはもう離してあげよう。……ゆるして、解放してあげよう」
「……母さん……」
「桃子さんが、最後に在義さんに宛てた手紙を読んだ」
「てが、み……?」
「咲桜のこと、書いてあった。……咲桜の望める幸せは、奪えなかった。だから、在義さんの娘として育ててほしいって。自分は咲桜となんの関係もなくていいから、在義さんの娘にしてほしいって、書いてあった」
「……母さん、そんなこと……」
「うん。俺はな、咲桜以上のものがない。美流子の存在も、もう薄らいでいる。探そうとは、口では言っても、実際にはほとんどしていなかった。……桃子さんには在義さんだけで十分なんだ。……最後に、咲桜を生んでくれてありがとう、って、言いたい」
「―――」
咲桜(私)の存在をゆるす言葉。
命を全肯定する言葉。
その血すら。
流夜くんの、その言葉は。



