使い慣れたキッチン。


カップの位置も、茶葉の位置も変わっていなかった。
 

二人分の紅茶を淹れた。コーヒーより紅茶がいいと流夜くんに言われた。


たぶん、私が紅茶党だからだろう。
 

ローテーブルに設えられた足のないソファ。


流夜くんが私をそこへ招こうとするけど、私は突っ立ったまま動かなかった。


「咲桜? こっちに――」


「私も流夜くんにお願いがあるの」
 

言いかけたのを遮られたからか、流夜くんは一度瞬いたあと、「なんだ?」と促した。


私はソファに座る流夜くんの隣に膝をついて、ポケットに手を入れた。


「お願い……………私を殺して」
 

取り出したのは、カッターナイフだった。


「! 咲桜っ!」
 

流夜くんはすぐにそれを奪い取って部屋の隅に放り投げた。


そのまま、私の両腕を封じた。


「なに言ってるんだ、お前は」