「……人の感情に、正解なんてないんだから、冬香は自分で感じたこと、大切にしていいだろ」
「……そう思いたい、けど……」
「別に全部口に出す必要はない。でも、冬香の心臓は……心は、冬香のものだ。冬香の心が正しくいられることが、一番大事だ」
 ……そうかな、そう思っていいのかな。
 不思議だ。今のハルは昔の私を覚えていないのに、ずっと一緒にいたような言葉をくれる。
 これも感情を分け合ったから? 
 分からない。でも、私は私の気持ちを大事にしていいんだと、そう言われたことが、どうしてこんなに胸に突き刺さる。
 ハルを満たしてあげる気持ちでハグをしたつもりなのに、どうして私の方が救われてしまっているんだ。

「ありがとう、ハル……」
 情けないほど、声が震えてしまった。
 きっと、私はあの過去を通り過ぎたものとして飲み込むには、もう少し時間が必要だろう。
 でも、ハルの言葉で、少しだけ過去の自分を肯定してあげられるような気持ちになった。
 また、ハグの魔法を、かけられてしまった。
 さっきよりずっと優しい鼓動が、体に流れている。
 こんなに優しい鼓動をつくってくれるのは、やっぱり君なんだ。……君だけなんだ。


 たとえ私の記憶を失くしていても、今でも君が世界で一番私のことを知ってくれている気がするのは、どうしてなの。