「…え?」

紅玉の声が震える。
金剛は紅玉の方に真っ直ぐ向き直り、言葉を続ける。


「今は、このラピスラズリに夢中なのです。他の石には、しばらく手をつけられそうにない。」

「わたくし…、その石で作っていただいてもかまいませんわ。」


金剛は首を振る。


「イメージモデルがいるのです。その人のイメージと、ラピスラズリが繋がって離れない。どんな細工が似合うか、その人を輝かせるか、頭の中がそれでいっぱいなのです。だから、これは貴女のためには作れない。」


そう言うと、金剛は愛しげにラピスラズリをなでた。

紅玉はしばらく呆然と立っていたが、はじかれたように作業室を飛び出した。


隠れていた琥珀が慌てて出てくる。


「金剛!どうしてそんなことを!!」

「しかたない、真実だ。」


金剛は石を見たまま、琥珀の方を見ない。


「紅玉様を、追いかけないのか?」


返事は無かった。

琥珀は眉をひそめ金剛を睨むと、紅玉の後を追って作業室を飛び出していった。