「秘書か。
意外に多才だな。」

「いえ、就職活動で資格の欄を埋めたかった
だけです。
秘書検定は2級までは一般常識だけで受かる
ので。」

「いや、今は一般常識がない奴が多いから、
それが出来るだけでも助かる。
今日は、聞いててどうだった?」

「佐藤部長の食いつき方が半端ないと
思いました。
価格を気にするという事は、価格の折り合いが
つけば欲しいという事だと思うので。」

部長はにっこりと笑顔を見せた。

「よく見てたな。
じゃあ、そこへ持っていくための方法を
これから覚えるんだ。
俺が今やった事を瀬名ができるようにするん
だからな。」

「はい。」

部長は怖い。厳しい。
だけど、時々、とても優しい笑顔を見せる。

すると、胸の奥がきゅんきゅんする。

これは、反則だと思う。


「そういえば、部長の名刺、役職が入って
ませんでしたけど、印刷ミスですか?」

ふと思い出して聞いた。

「いや、2種類あるんだ。」

部長は、役職付きの名刺と、まるでヒラ社員のような名刺を並べて見せてくれた。

「部長が営業に来たら、客は、絶対なんか
買わされると思ってガチガチに警戒するだろ?
だから、普段は肩書きは言わずに営業するん
だ。
逆に、謝罪は、ヒラ社員が謝るより、上役が
謝った方が効果があるから、役職付きの名刺を
出す。
時と場所によって使い分けてるんだ。」

「へぇー
名刺1つでもいろいろ工夫があるんですね。
私も部長の名刺、欲しいです。」

「は?
同じ会社の奴から名刺もらっても意味ない
だろ?」

「私の営業への異動の記念に。
ダメですか?」

私が言うと、部長は笑って、

「別にダメじゃない。
ほら。」

と2種類の名刺をくれた。

ふふっ
なんだか、嬉しい。