バキバキと次々殻を割り、金色の鱗の付いた翼が見え隠れしている。

「………」

レインは言葉を失ったかのように、ティアが出てくる姿を見ていた。

『ピギィー!!』

そして、産声と共に金色の龍が飛び出してきたのだった。

「……っ………ああ……!」

吐息に似たような声が漏れ、レインは胸を押さえた。

嬉しいという気持ち、良かったという気持ち、やっと会えたという気持ち。

様々な想いがレインの中で交じりあい、涙が溢れる。

「………」

そんなレインの様子を、レオンは父親のような眼差しで見ていた。


『ピギィ!ピギィ!?』

卵から出たティアは、物珍しそうに辺りを見回している。

そして、レインに気付くと、とことこと側に寄ってきた。

『ピギィ?』

不思議そうな目でこちらを見上げるティアに、レインは笑ってみせる。

「ティア!やっと会えたね!」

屈んでティアの頭を撫でると、ティアはレインの手にすり寄る。

『ピギィ!!』

「どうやら、君を親と思ってくれたらしいよ」

「はい!」

レインはティアを抱き上げると、あまりの小ささに不安になる。

「ティアは、卵の時よりも小さいし、大丈夫でしょうか?」

三年前に会った龍はとても大きかったので、ティアは大丈夫なのかと心配になったのだ。

「龍は卵から出た後の成長がとても早いんだ。だから、あまり心配しなくても、すぐに成龍になるよ。まぁ、すぐといってもまた三年くらい……いや、この子なら二年で大人になれるかな」

何やら意味深なことを言うレオンに、レインは首を傾げる。

「どうしてなんですか?」

「………まだ秘密」

「師匠は秘密が多いですね」

人差し指を唇の前に立てたレオンに、レインは肩をすくめる。

「女性の秘密の多さには負けるけど」

「私は秘密なんてありません」

「まぁ、レインはねー……女の子らしさが足りないよね。半分僕のせいだけど」

後半はレインの耳には聞こえない声でぼそりと呟く。

レインは礼儀正しい方だし、師弟となってからは、常に敬語だ。

だが、おしとやかという訳ではない。蛙や虫を平気で素手で鷲掴みにし、にこにこ笑いながら見せに来る子だ。

それに、服も男の子が着ている物で、髪も伸びたとはいえ乱雑に切ったままなので、下手をしたら男の子に見えるだろう。

髪型は、レオンが一度失敗しておかっぱにしたせいで、レインが自分で切り始めたのが原因だが。

(恋でもすれば、女の子らしくなるかな?)

そう考えて、レオンはすぐ首を振った。

(いや、いくらなんでも早すぎる。レインにはまだ恋愛よりもやることがあるし、何より僕の可愛いレインを、どこの馬の骨かも分からない輩には渡せない)

レインを任せられる男は、魔王にも大魔王にも勝てるような男でないと認められない。という、完全に娘離れ出来ない父親のような思考を巡らせていた。

そんなレオンの考えなど知らないレインは、ティアを夢中で愛でていたのだった。