ティアをここに置いてもらえるように、頼むつもりだった。

たが、レインはティアを育てているうちに―否、ティアが卵の時から。

一緒にいたせいか、離れたくないと思っていた。

だが、ティアのためには、ここで暮らしてもらうのが幸せかもしれない。人間の自分が側にいてはいけないかもしれない。

それでも、やっぱり離れたくなかった。ティアをずっと育てていきたかった。

(ここにいれば、ティアを育てることが……一緒にいることが出来る)

けれども、もう師の元へは帰れない。

もう一人の家族、理解者、友人。そのすべてに当てはまる彼と、また暮らすことは叶わない。

それが、今一番寂しくて、レインはギュッと手を強く握りしめた。

龍の谷に着いたことの嬉しさよりも、寂しさの方が勝ってしまった。

レインの心がいくら成長しようと、まだ彼女は十五才。

人の温もりや家族からの愛情を与えられていていい年齢だ。

「……ここなら、お前は幸せに暮らせる。そう思ったから、あいつはそう言った。そして、僕も特に異論は無かったから許可を貰った」

「……」

「……だから……その……何だ……」

歯切れが悪いアルを、レインは見上げる。

「……お前がどうしても、その師匠と暮らしたいなら、こいつが成龍になってからでも遅くないだろ?……こいつが大人になったら、僕も一緒にその男を探してやる」

「……つまり、ティアが大人になってから、師匠を探しに行けばいいってこと?アルも探してくれるの?」

レインの言葉に、アルはプイッと顔を反らす。

「……その代わり、気が向いたらだからな。期待はするな」

不機嫌な顔でそう言うアルに、レインは不安そうに眉を下げる。

『安心しろよ姉貴。兄貴がこういう時は、照れてるだけだから。ちゃんと約束通り、一緒に探してくれるぞ』

「………」

更に眉を潜めて黙るアルに、レインも更に困る。

『ツンデレ!』

『ああ。何かそれっぽいな………いや、ほんとは分かってないけどな?!全然「ツンデレ」が何なのか分かってないから!!』

何故か慌て始めたゼイルに、レインもアルも訝しげな視線を送る。

「………まぁ、ゼイルのことは放っておけ。……そいつが成龍になってから、その後の生き方を決めても遅くない。……そう言いたかっただけだ」

「………ありがとう!」

不器用なアルの言葉は、レインにはしっかり届いたらしく、満面の笑みを浮かべた。