(何で……いや、記憶を読み取れる男だから、僕の名前を知っていても当然か……)

『兄貴。そのちんちくりんどうするんだ?後怪我は?』

「治ったからな、大丈夫だろ。……龍の谷に、こいつを連れてく。そして、そこに住まわせる」

『マジかよ?!だってその子人間じゃん!まぁ、確かに兄貴も人間だし、同じ赤色の髪だけど……でもなー』

自分のいない間に、アルがレインを受け入れるほど仲良くなったのかと思うと、少しばかり面白くない。

『何で兄貴、そんなの気に入ったんだよ?傷が治ったなら、そのまま返せばいいじゃんか』

『ピギィ!』

ゼイルの言葉に返事を返したのは、先ほどから静かにしていたティアだ。

『え?何お前?……兄貴ー!変なのがいるー?!』

さっき背中を振り返った時見えただろ。という視線を送ると、ゼイルは首を傾げる。

「……お前の言うちんちくりんの龍だ。ついでに言うなら、新しい龍使いだな」

『へー……ってことは、まさか龍使いだから連れて帰るのか?』

心底驚いたような声に、アルはため息を吐いた。

「それもあるが……元々龍の谷に向かっていたらしいし、それに……恩人だからな」

『恩人?……!あ、ああ!兄貴の肩に傷がー!!』

今気付いたのか、悲鳴のようにわめき散らす相棒に、アルは疲れたような顔をする。

「こいつが、治療をしたんだ。こいつを連れてきたのも、借りを返すためだ」

『なるほど。兄貴の恩人なら、俺の恩人だな!』

(お前は恩を受けてないだろ)

ツッコミたいが、そんな気力も失せたアルは、手の甲に顎を乗せながら、レインを見る。

顔には赤みが戻っていて、呼吸も落ち着いていることから、心配はいらなそうだ。

『よし、恩人の龍ならお前も認めるぞ!名前は言えるのか?』

ゼイルはティアへ話しかける。

『ティア!』

『ティアか。よし、今日から俺がお前の兄貴だからな!兄貴と呼べよ!』

『タロウ!』

ティアは一日に一つの言葉しか覚えられないので、ゼイルの名前は言えなかった。

『……何だろう。どっかの島国の代表名みたいな気がするぞ……』

「……そろそろ静かにしてくれ」

心底疲れたと言うアルに、ゼイルは黙って空を飛び続けた。