「お前は!」

いつの間にかアルの背後には、三年前に会った男が立っていた。

相変わらず、読みにくい笑みを浮かべている。

「…………レインの、師だな」

ニコニコと笑ったまま、レオンは頷いた。

「何故ここに?というか、何で透けている?……幽霊か?」

「今ここにいる僕は分身みたいなものだからね。……それより」

レオンはレインの側へ屈むと、そっとレインの背中へと手を添える。

「……こんな目に合わせるつもりじゃ無かったんだけどね。……やっぱり、君はこの国では生きにくいだろうね」

レオンの手から、光がいくつも浮かび上がる。

「何をしてるんだ?」

「……傷を癒してるんだよ。女の子の肌に、傷が残ったら大変だしね」

『兄貴ー。さっきから、何一人でぶつぶつ言ってるんだー?』

後ろでの、アルのことが気になったのか、顔だけ背中を見る。

「何言って―」

「ああ。僕の姿は、君にしか……いや、君とその子しか見えないからね」

レオンは視線でティアを見ると。ティアは黙ってレオンを見上げていた。

「……はい。もう大丈夫………やっぱり、君には普通に幸せになってほしいな」

後半の言葉はアルに聞こえないよう呟き、レオンはティアに微笑む。

(君と、ただ静かに暮らす方が、よっぽどいいよね。外の世界から閉ざされた世界にだって、幸せはあるから)

「レインに伝言お願いできるかな?」

「伝言?」

訝しげにこちらを見るアルに、レオンは頷く。

「そう。……『僕はもう君の帰る場所にはなれない。君は龍の谷で幸せに暮らしてほしい。それが、僕の願いだから』ってね」

悲しげに微笑むレオンに、アルはため息を吐く。

「……自分で言えば良いだろ」

それほど大事ならば、自分で伝えるべきだろう。

「もう、時間がないんだ。……レインのこと、よろしくね。……あ、よろしくって言っても、レインは君にはあげないからね?あくまでお友達として認めるだけだからね?」

「……何の話だ」

アルの疑問に答えず、レオンは更に続ける。どうやら、お父さんスイッチが入ったらしい。

「いくらレインが可愛いからって、毒牙にかけるようなことしたら、馬に蹴られる呪いか、寝癖が直らない呪いかけちゃうから。肝に命じてね」

「誰がこんなちびなんか―」

「レイン馬鹿にすると、コーヒー中毒になる呪いかけちゃうよ?」

にっこり笑いながら、背中から何やらどす黒いオーラを出しているレオンに、アルは半目になる。

(めんどくさい奴だな。……こーひー?って何なんだ?)

別作品のネタを出されても、アルに通じる訳が無かった。

「とにかく、レインのこと、守ってあげてね。後、もう一つだけお願い」

レオンはレインを見ながら続ける。

「この子から君は、横笛のことを聞いた?」

「……ああ」

形見だと、レインから聞いていた。

「その横笛も、この子と一緒に守ってほしい。……壊れてしまわないように気を付けてね。それさえ無事なら、この子は幸せでいられるから………頼んだよ、アルくん」

その言葉と共に、レオンの姿はかき消えた。