龍使いの歌姫 ~幼龍の章~

『レインー!!』

「!ティア?!」

リュックから出たティアが、走ってこちらにやってきた。

「駄目!ティア逃げて!!」

「あれは、まさかあの時の……何故もう生まれているんだ……」

呆然と呟くような声で言いながらも、すぐに頭を振って大剣をティアに向けている竜騎士に、レインは走り寄る。

「駄目!止めてください!!」

レインの制止に構わず、竜騎士はティアへと大剣を振り下ろした。

だが―。

「!……ぁ……」

ティアを庇うように抱き締めたレインは、そのまま前へと倒れる。

「!!」

竜騎士は、自分が切ったレインの姿に、目を見開き呆然としていた。

『レイン!』

ティアがレインの顔を覗きこむと、レインは無理矢理口端を上げて笑う。

「大……丈夫……………大丈………から」

切られた背中が熱を持ち、それはやがて酷い痛みへと変わる。

「………ティア………アルと…………げて」

『ピギィ!?』

ぶんぶんと首を横に振るティアへと、レインは手を伸ばす。

だか、すぐに力尽きたように地面へと落ち、レインの視界は暗くなる。

「……俺……は……」

竜騎士は小さく呟くと、自分の右手を見て、その先にある大剣から滴る血を見た。

「!」

息を飲んで、レインを見直す。背中の布は血が染みたのか、赤く染まっていた。

青白い顔の少女の姿に、背筋が凍りそうになる。

傷付けるつもりはなかった。ただ、少し脅すつもりだった。

だが、ティアの姿を見て、彼女の命令を思い出し、それを優先した。

これは仕方のないこと。単なる事故だと片付けようとしても、竜騎士は手が震える。

何故か、罪悪感に似た恐怖が沸き上がった。

(何故だ?……たった二回会っただけの少女に、情でも沸いたというのか)

『…………ギィ………』

レインの意識が完全に途絶えると、ティアは今まで出したことのないような、低い声で鳴く。

「?」

ティアの異変に気付き、竜騎士が顔をあげると、ティアが目の前に立っていた。

『ピギィィィィィ……………ピギィィィィィ…………」

まるで獣の唸り声のような声を出すティアに、竜騎士は警戒するように大剣を構える。

「何をするつもりだ」

『ギィ………ガァァァァァァァ!!』

口をカバッと開けると、回りの空気を吸い込み、それを火に変え吐き出す。

龍の炎は、体内の魔力によって作り出されるもの。空気中の酸素を魔力を使って燃焼し、吐息と共に吹き出すのが原理だ。

だが、本来なら成龍にしか使えないものだ。