もうすぐ山の頂上というところで、突然ティアが背中によじ登り、器用にリュックのボタンを外して入ってしまった。

「?ティア?」

『………』

ティアは返事をしない。

まるで、紅花村で竜を見に行った時のようだ。

(……何かいるの?)

「どうやら、何かを警戒しているみたいだな。龍は警戒心が強く、敏感だからな」

アルがそう言うと、レインは頂上を見上げる。

すると、何か黒い点のようなものが見えた。

(あれは……人?)

「……」

近付けば近付くほど、その形を為す。

「お前は、僕の後ろにいろ」

アルは手で制してから、レインよりも先へと進んでいく。

レインも念のため、弓をリュックから外し、左手で持った。

頂上まで辿り着くと、そこには大剣を背負った男が背を向けていた。

「……またお前に会うとはな。昨日は世話になったが」

「………」

男はゆっくりこちらを振り返る。

(やっぱり。竜騎士って呼ばれてた人だ)

レインが驚くと、竜騎士もレインに気付き、目を見開く。

「……まさか、龍を狩るついでに見付かるとはな」

竜騎士はレインを見たまま呟く。

「赤い髪の娘。お前を城へ連れていく。……大人しく来れば、手荒な真似はしない」

「……嫌です。私には行かなければ行けないところがあるんです」

何故城へ来いと言うのか、レインには全く分からないが、首を振って拒否した。

「こいつを連れてかせるわけには行かない」

「……邪魔をするなら、今度はその首を切り落とす」

大剣を引き抜き、アルへと向けると、アルも槍を構える。

「レイン、お前は下がってろ!」

「!私も―」

「足手まといはいらない。早く下がれ!」

加勢すると言うように弓を見せたが、アルは必要ないとレインを下がらせる。

確かに邪魔になるかもしれないと思ったレインは木の後ろに隠れ、二人の様子を伺った。