一日経つごとに、ティアは少しずつだが、言葉を覚えていった。

どうやら、一日に一言しか覚えられないと、観察しているうちに分かったのだ。

『ご飯!』

「そう。これは?」

『リンゴ!』

リンゴを差し出すと、嬉しそうに食べる。取り敢えず、四日目でやっと「リンゴ」と「ティア」は言えるようになった。

この調子で、少し長い言葉も覚えさせていければ、ティアともっと意思を通わせられるだろう。

『……?ピギィ!』

リンゴをバクバクと食べていたティアは、不意に鼻をピクピクと動かし鳴く。

「?どうしたの?」

レインが首を傾げると、ティアはリンゴを放り出してとことこ歩く。

「あ!待ってティア!」

放り投げられたリンゴを急いでリュックに詰めると、ティアの後を追い掛ける。

ティアは何やら、犬のようにクンクンと地面やそこら辺の匂い―空気の匂いを探っている。

一体どうしたのだろうか?

「ティア?何かあるの?」

『ピギィ!』

レインの質問に、ティアは顔だけ振り返って頷く。

(あの人ではないと思うけど………)

竜騎士と呼ばれていた男の気配が分かったとしたら、ティアは恐らくレインのリュックに隠れるだろう。

その様子は見られないことから、何か別の理由があるのだろうが。何が起こるか分からない。

念のため、何時でも矢を放てるように、弓矢を持っておく。

暫く道なりに進んでいくと、ティアは右へと曲がった。

そちらは、完全に獣道である。

「ティア?」

一応来た道が分かるように、レインは矢を木に刺しながら進む。

そろそろ補充をしなければ、足りないだろう。

『ピギィ!』

ティアはピクッと耳を震わせ、一気に走っていく。

「!ティア!」

ティアの姿が森の奥に消え、レインは焦る。

『ピギィー!』

ティアの悲鳴に似た声が聞こえ、レインは走る速度をあげた。

深い森を走り抜け、開けた場所に出る。

そこには―。