城の中を、ドレスの裾を持ちながら走る。

玉座の間へと着くと、扉の前に立っている兵を押し退けるようにして扉を乱暴に開ける。

「お母様!!」

「騒がしいの。何か用かえ?」

玉座に座りながら、気だるそうにこちらを見下ろす女性に、少女はずかずかと歩み寄る。

「リトが……私の婚約者が生け贄ってどう言うことなの?!何で?リトは私のよ!私のなのに何で龍なんかにあげるの?!」

自分と同じ、白い髪と赤い瞳の女性に怒鳴り散らす。

「この城の占い師がそう言うた。神龍は具合が悪いらしくての。生け贄を差し出せば、容態は良くなるとな。そして、リトは……私の甥っ子であり、そちの従弟でもあるあの者は、生け贄に相応しい心の持ち主じゃと」

龍王は神龍よりも上の立場として扱われるため、神龍を「様」付けで呼んだりしない。

そして、この国の王族は血縁同士で血を繋ぐため、少女―セレーナの婚約者は、彼女の従弟だった。

「何でよ!神龍何か、いるだけで何の役にもたたないじゃない!」

「そちは、愚か者じゃな。王位を継げるものがそちしかいない故、甘やかし過ぎてしまったようじゃの」

「リトは駄目よ。生け贄なら、他の竜を差し出せば良いじゃない!」

城で飼われている竜こそ、差し出すべきだと思うセレーナに、龍王はため息を吐く。

「あれらは穢れておる。生け贄は清らかな者で無くてはならない。昔から決まっていることじゃ」

「今からでも、私はリトのとこへ行くわ!」

「無駄じゃ。もうリトは神龍に食われておる」

龍王の言葉に、セレーナは足を止めた。

「それとも、食い殺されている光景でも見に行きたいのかえ?……中々よい趣味じゃな」

「……もう死んでるの?」

セレーナの質問に、龍王は黙って頷く。すると、セレーナは興味を失ったのか、冷たい表情をする。

「………なら、もういいわ。私のだから、側に置いたんですもの。無くなってしまったのなら、もう良いわ」

それだけ言うと、セレーナは外へと出ていく。

(我が子ながら、随分と歪んだ子じゃのう。………いや、わらわの子だから、歪んでおるのか)

本当なら、セレーナを生け贄にしたいくらいだった。リトは従弟でありながら、心優しく王にふさわしかった。

勿論、まだ幼く未熟で、内気で気が弱いが。それでもセレーナよりは王らしくなれただろう。

けれども占い師は、セレーナこそこの国の王にふさわしいと言った。

彼女の占いが外れたことはない。だから言うとおりにした。

(……あの者が、次の王……か)

自分に、セレーナ以外の子供がいればと思い、ふと昔のことを思い出す。

もう思い出すのも汚らわしい出来事。父の実験のために、大嫌いだった兄の子を生まされ、生まれた子供は忌み子だった。

兄妹―それも双子という、一番濃い交わりの中で生まれた赤子。その手に抱くのでさえ気持ち悪かった。

双子とはいえ、あまりに似てなかった二人。兄と自分は正反対で顔も似てない。

二卵性の双子。だから、普通の双子のように、お互いを自分の片割れ、あるいは半身と思えなかった。

その兄は、リトを妾に生ませてから、とっくに病で死んでしまったが。

「あの赤子が忌み子でなければ、どんな子に育っておったかのう?」

皮肉気な笑みを浮かべながら呟いた言葉に、答えを返すものはいなかった。