「……お前は」

目の前にやってきた少女に、男は目を見開く。だが、すぐにいつもの無表情に戻す。

「そこのお前!その忌み子を捕まえろ!」

「……神官が、俺に命令するな」

男の態度に、神官の額に青筋が浮かぶ。

「何?―!その印は」

神官は男の大剣き刻まれていた印に気付いた。それは、月白国王家の紋章。

王家に仕えるものの証だ。

「あ、貴方様は……竜騎士様?!」

「………」

神官の狼狽えた様子に、竜騎士は答えない。

(竜騎士?)

心の中で首を傾げると、竜騎士はこちらを見た。

「……生きていたのだな。卵はどうした?」

「………知りません」

レインは背中から弓矢を取り出す。

「恐らくまだ生まれてはいないだろう。お前が生きてここにいるのなら、その卵もまだある筈だ」

「ありません」

卵は無いのは確かだ。もう生まれてしまったのだから。

「竜騎士様!その小娘を殺してください。忌み子はいなくなるべきなのです!」

「……俺の役目は、竜を殺すことであり、こんな小娘を殺すことではない。それに、俺に命令できるのは、姫様だけだ」

淡々とした竜騎士の言葉に、神官は眉を潜める。

この男は龍王よりも姫の方に、絶対的な服従をしている。

神官は城に仕えている訳ではないので、城で暮らす姫を見たことがない。

噂では、見目麗しいが、少々我が儘だと聞いた。そんな姫の命令しか、この男は聞かないという。

「これは、王家にも関わることですよ?ディーファという存在がどんなものか、貴方もご存じては?」

「国を滅ぼす、不幸を招く、神を殺す……他にも色々あるな。……だが、俺にとって姫様の命令以外はどうでもいい」

「!……貴方という方は」

神官は竜騎士を睨み付ける。だが、竜騎士は興味がないのか、隙を伺っているレインへと視線を戻した。

「渡してもらうぞ」

「だから、卵はもう無いんです!」

「隠しても無駄だ。龍特有の気配をお前から感じる。……そのリュックの中だな」

「!!」

レインが驚きに目を見開くと、竜騎士は大剣をレインに向けた。

これでは、三年前の再現のようだ。

「………」