レインは走った。後ろからは神官達が追い掛けてくる。

『ピギィ………』

リュックが揺れるので、中にいるティアも窮屈そうに唸る。

「……もう少し、我慢して」

小声で声をかけてから、ふとノノンの事が気になった。

今は、彼女の父親と一緒にいるだろう。両親というものを知らないレインは、もしかしたら父親がノノンに危害を加えないかと一瞬思った。

だが、それは無いと頭を振る。

血の繋がった、たった一人の娘だ。きっと、ノノンを守ってくれる。

(でも、何でだろう)

心の中に、不安が広がった。

「くそっ!早く殺せ!」

後ろから、神官の怒鳴り声が聞こえ、レインは肩越しに振り返る。

(あの人達は、どうしてそこまで必死なんだろう?)

たかが小娘一人に、大の大人が束になって追い掛けてくる。

そうまでして、自分を殺したいのだろうか?

(でも、私を殺して、何が変わるのかな?)

赤い髪を持つ子供が生まれる度に、こうやって追い掛けまわし、殺すのだろうか?

もしそうなら、赤い髪に生まれるのは、自分で最後が良い。

レインは走りながらそう思う。

そして、昔会った赤い髪の少年の姿が、頭をよぎった。

(あの子も追い掛けまわされたり、殺されそうになったりしたのかな?)

だから、人間というものが嫌いなんだろうかと思う。

村の広場が見え、レインは目を見開いた。

広場の中心に、大剣を構えた男がいたのだ。

(………あの人………)

レインにとっては、もう忘れていた筈の男。

三年前、ティアを殺そうとしていた男がいた。カラスのように真っ黒な髪と、冷たさを潜めた青い瞳は、三年前と同じ。

「……止まれ」

「……っ」

レインは足を止めた。追い掛けてくる神官達と違い、この男は手強い。

本能的にそう感じた。