レインは朝食を食べ終わると、ノノンに村を案内してもらうことになった。

『ピギィ!』

ティアはリュックの中に入ってしまい、そこから出ようとしない。だが、置いていこうとすると鳴くので、リュックを背負ってティアも連れていく。

「ここでは、旅人が商品を売る時は、村長さんに許可を貰って、指定された場所で売る決まりだから、まずは村長さんの所に行こう!」

ノノンの案内で村長の元へ行くと、商いの許可を貰う。

当然、レインはフードを深く被っていたため、村長は怪しんだが、ノノンが上手く説明してくれたお陰で許可を得られた。

「旅の商人さんはね、ここで商いをしてるの。楽器弾いてる人も時々いるよ」

そう言いながら、ノノンはちらりとレインの首から懐へと繋がっている紐を見る。

「お姉さんのその紐、何?」

昨日から気になっていたのだが、聞くタイミングを逃していた。

レインはそっと懐にある横笛へと手を伸ばす。

服から出さずに、布越しにそれを握った。

「……私の、姉さんの形見」

姉が残した唯一のもの。

「そっか」

ノノンはそれ以上聞くことはしなかった。

「どうする?先に薬を売る?それとも、竜を見に行く?」

「先に売ってから、見に行こうかな。そろそろ人が集まる時間帯だろうし」

もう日は昇りきったし、先程からちらちらと人の出入りが見られる。

レインは指定された場所に、絨毯を敷いて薬を並べた。隣には、売るのを手伝うとノノンが立っている。

因みに、ティアは驚くくらい、静かにリュックの中に収まっていた。

恐らく、見ず知らずの人間が沢山いるので、警戒しているのだろう。

「いらっしゃいませ!お薬はいかがですか?」

「いらっしゃいませー!」

レインの真似をして、ノノンも声をかける。すると、年配の女性が寄ってきた。

「おはようおばさん!薬買って?」

「あらま。ノノンが商売してんのかい?」

「ううん、お姉さんのお手伝い!」

ノノンはレインを振り返る。

「なるほど。ま、ノノンがなついてるくらいだ。悪い人間では無いだろうさ。これは何の薬だい?」

「これは、痛み止めです。主に膝や腰の痛みを和らげるのに適しています」

小さな小瓶を指差した女性に、レインは説明をする。

「なるほどね。調度腰が痛くて参ってたんだよ。折角だから一つ貰おうかね。いくらだい?」

「ありがとうございます!お代はこちらでしたら、百ガロです」

「おや、随分安いじゃないか」

この国のお金は「ガロ」という。タダの次に安いのは一ガロだ。ガロより上が「一ポル」である。

※読者の方に分かりやすく言うなら、ガロは一円。ポルは一万円のことです。

薬と言えば高いという感じなので、女性は驚いていた。

「材料費がそもそもかかっていませんから」

殆どがここに来る前に、森で採れたものだから、高いお金を貰う意味はない。

せいぜい、作る手間賃くらいだ。

「良心的だねぇ。他の友達にも声かけとくよ!」

「ありがとうございます!」

「おばさん!ありがとう!」

機嫌良く去っていった女性を見てから、レインとノノンはお互いを見合い笑う。

最初の一歩は上々だ。