薄暗い部屋の中、水晶玉を覗きこむ一人の人間がいた。

灰色のフードを頭からすっぽり被り、収まりきらなかったであろう茶色の長い髪が見えている。

歳は随分いっているのか、手には皺が刻まれていた。

「……三年前、愚かなわたくしの弟子は予言通り死んだ。わたくしの予言は外れない」

しゃがれた声だが、どうやら女性のようだ。

彼女は薄ら笑いを浮かべたまま、水晶玉を覗きこむ。

「神龍様がおり、セレーナ様が龍王となられれば、この国は安泰。だが、何やら不吉な相が出ている……恐らくは幻惑の魔法使いのことだろう……ならば、あやつは始末せねば」

かつて、弟子と共に城に仕えていた男を思い出すと、腸が煮えくり返る。

龍王に仕える身でありながら、弟子と共にある日、城から姿を消した。

「ティアナに『龍笛』を渡したのはあやつだ。だが、三年前のあの日、ティアナは己の身と共に部下達を巻き込んで死んだ」

その時、龍笛も一緒に飲み込まれたのだろう。だが、あれが無くても困りはしない。

セレーナが大人になれば、あれを使わずとも彼女自身の力でどうにでもなるのだ。

「わたくしの回りにいる者は、愚か者ばかりだな」

国のことを全く分かっていない。

「……せっかくだ、奴も旧友に殺される方が本望だろう。姫様にお借りしなくてはな」

そう言うと、老女は部屋の外へと出ていった。