「………」

「当たらないね」

的に向けて矢を放つが、レインの矢は的の前で落ちる。

中央に当たらずとも、的には刺さらなければ。

「………」

足を広げ、前へと重心をかけ、矢を中仕掛(なかじかけ)に引っ掛ける。

因みに中仕掛は弦の中心とも言える部分だ。

グッと引っ張り、視点を的へと合わせると、レインの腕が小さく震える。

弓矢は力を使い、ずっと同じ体勢で構えるので、思ったよりも体力と集中力を削られる。

レインは首筋を伝う汗を無視し、矢を放った。

だが、やはり的に当たる前に落ちる。

「やっぱり、引く力が弱いね。もう少し強く引っ張らないと飛ばないから」

「師匠はどれくらい飛ばせるの?」

気になっていたことを聞くと、レオンはニッコリ笑った。

「見せてあげようか?」

「はい!」

レオンは頷くと、レインを連れて森の奥へと進む。

そして、頭上を見上げた。

「良いかいレイン。狩りはね、生きるためにやるけれど、無闇やたらに命を摘み取っちゃいけない。殺してしまったからには、感謝して食べなければ。でも、食べる必要のない命は奪っちゃ駄目だ」

空を飛ぶ鳥に向けて、レオンは矢を引いた。

「食べる必要のない存在を、悪戯に殺めてはいけない。それは、竜も同じなんだ」

その言葉と共に、矢が放たれると、鳥の体を貫いた。

そして、地上へと落ちてくる。

「人間は『命を頂いてる』。だから、恵みに感謝をするんだ。人間は、慣れる生き物だから、いつの間にかそれが当たり前で、あって当然のものになってしまうけど」

落ちた鳥の足を、レオンは掴む。

「君は大人になっても、忘れないでほしい。当たり前なんて無いんだと」

そう言いながら、レオンはまた微笑んだ。

「……はい」

レインには、レオンの言葉の本当の意味が、まだ分からなかった。

けれども、前に出会った少年の言葉が甦ると、胸の奥が痛くなる。

『自己満足のために、殺す必要のないものを殺している愚かな生き物だ』

その言葉と、レオンの言葉を、レインは心に刻み込んだ。