「レイン。君がここに住むにあたって、決めておかなくちゃいけないことがある」

「はい」

お互いに向き合うように床に正座すると、レオンは深刻な顔で告げた。

「君の僕に対する呼び方だよ」

「………えー」

そんなことのためにこんな空気を作ったのかと言う視線をレインが送ると、レオンはまだ真剣な顔のままだ。

「呼び方は大事だよ。……やっぱり師匠かな?レオンさんでもいいけど」

何やら悩み始めたレオンに、レインはただ困ったように頬を掻く。

「ハッ!そうだ。お父さんはどうかな?三年とは言え、僕の子供になるわけだし」

弟子になるという話だったとレインは記憶している。それに、レオンはお父さんと呼べるほど歳がいってるようには見えない。

ティアナと同じくらいに見えるし、どちらかと言うと「兄さん」と呼ぶべきだろう。

「師匠でいいと思う」

だが、弟子という立場なら、この呼び方が一番自然だ。

「お父さん……良い響きだね。あ、でもパパって言うのも良い―」

「師匠!」

百歩譲ってお父さんは良いとして、「パパ」と呼ぶのは恥ずかしくて嫌だったため、師匠と押しきる。

「師匠で良い!師匠って言葉素敵だもん!」

若干必死なレインの様子に、レオンは頷く。

「じゃあ、『師匠』で。でも、呼びたくなったらパパって呼んでも良いよ?それかお父さん―」

「嫌!」

レインのバッサリとした拒否っぷりに、レオンは笑っていた。

(この人、大丈夫なのかな?)

今更ながら、レインはレオンとの生活に不安を抱いたのだった。