「……」

『兄貴?』

「いたぞ。……人間がな」

少年の声に、銀色の龍は下を見下ろす。

確かに、木々の隙間から金色の光が見える。

『合図か?』

「違うな。どうやら隠れているつもりらしい。取り敢えず追い払う。……場合によっては」

少年は背中に背負っていた長い槍を構える。

「始末する」

『兄貴の手を汚す必要はないだろ。何ならおいらが燃やしてやるよ』

ガバッと口を開ける龍を制し、少年は槍を下へ向けた。

「行くぞ」

『了解!兄貴!』


ティアをぎゅっと抱え込み、レインはこちらへ来る何かを凝視する。

(鳥じゃないみたいだけど……あれは、何?)

黒い影が近付けば近付くほど、奇妙な姿が浮かび上がる。

額には二本の尖った角。骨の浮き出た皮の翼と、蛇のように長くうねる尻尾。

光を受ける度に、虹色に輝く体。

そして、ティアナが呪文を唱えた時に出てきたのと同じ、鋭い牙が何本も生えた口。

レインは、今まで見たことの無かった生き物に、心奪われた―否、懐かしさに似た何かが沸き上がった。

すると、レインの胸元が熱くなる。

それは、ティアを見つけた時の横笛の熱と同じだ。

ティアを抱えたまま、横笛を取り出そうと右手を伸ばす。

だが、その時―。

「何者だ。お前」

レインの目の前に、少年が降ってきた。