レインが眠りについた頃。頭上を大きな影が横切った。

風を切り、ヒュンヒュンと耳元で音が鳴る。

「……いつも付き合わせて悪いな」

『別に良いってことよ!兄貴のためなら例え火の中、水の中だ!』

低く、こだましたような声が夜空に響く。

銀色に輝く鱗は、月の光を受ける度に虹色に輝き、骨が浮き出た皮の翼は、緩やかに上下に動かされる。

傷一つ無い真っ白な角に、人の手が掴まっていた。

『でもな、兄貴。角掴むのは止めてくれ』

低い声の言葉から、龍であることが伺える。

「ここからの方が、下が見やすいからな。我慢しろ」

まだ幼い少年の声が響く。

『でも、『龍の谷』に近付ける人間なんていないだろ?結界もあるし……』

「確かに、結界のお陰で普通の人間には、龍の谷は見えない。が、人間の中には、竜を飼育し、飼い慣らす者もいる。念には念をいれておくものだろ」

ぐっと下を覗き混み、前のめりになる人影。時々月明かりの下に浮かび上がる姿は、恐らくレインと同じくらいの年齢だろう。

闇の中、月と同じような金色の瞳で、下を見下ろす。

「……?」

『どうした?兄貴』

「……いや」

少年は視線を反らす。先ほど山の頂上より少し下で、何かが光った気がした。

だが、気のせいかと思い直すと前を向く。

「……一度帰るぞ」

『了解!』

少年を乗せた龍は、暗闇の中へと消えていった。