卵―ティアを抱えながらレインは歩き、時々木の実を摘まむ。

水分が多く含まれている木の実のおかげで、お腹は満たされるし、喉も潤う。

だいぶ進んだのだろう。段々登坂になってきた。

ここからは、山を登ることになるのだろう。だが、有難いことに、整えられた道は真っ直ぐ延び続けていて歩きやすい。

レインは気合いを入れて、山登りを始める。

だが、背中の木の実と卵の負担から、山を登るのは困難だった。

最初はどんどん登っていけたのだが、坂が急になってくると、荷物を運びながらではくたびれてしまう。

レインの額からは汗が大量に流れ、服も肌に張り付いて不快だ。

「はぁ……はぁ……もっ……駄目……疲れた」

近くの木に体を投げ出すと、千切れた雲がいくつも浮かぶ空を眺める。

卵を撫でながら、レインは息を吐いた。

ティアは、龍の谷に着くまでに生まれてくれるだろうか?

できれば、早めに種類は分かった方がいい。それによって、龍族にティアをお願いするか、自分がティアを育てるかが決まるのだから。

「ねぇ、ティア。あなたは、いつ生まれるの?明日?それとも明後日?」

ティアに話しかけても答えなど返ってこないというのに、レインは尋ねる。

本音を言えば、レインは早く赤ちゃんが見たいのだ。だから焦ってしまう。

だが、焦ったところで生まれるわけはなく、レインは諦めてまた空を見上げた。

木々の隙間から見える太陽は眩しく、まだ日が高いことは分かる。

一体後どれ程進めば、龍の谷に着くのだろう?

今日中には着かないだろう。何せこの山の半分も登れていないのだ。休憩をいれながらだと、頂上に着く前に夜になってしまうだろう。

今のところ獣が飛び出してくる気配はないが、小枝を集められるだけ集めて、焚き火の準備をしなければ。

(もう、行かないと)

立ち上がり、今度は籠の中にティアを押し込む。木の実が減ったので深く入れられるようになったのだ。

これなら、転げ落ちる心配は無いだろう。

ただ、腕の中に温もりがないのは少し寂しかった。だが、レインは籠を背負って再び登る。

流れる汗を腕で拭い、首に張り付く髪を無視して、小枝を集めながら、無心に登り続けた。