翌日。

「姉さん。明日のこと覚えてる?」

「勿論よ。可愛い妹の誕生日を忘れるわけないでしょ?」

明日はレインの、十二才の誕生日だった。

「楽しみ!ね!明日は竜のお肉食べられるの?」

竜の肉は、この国では最高級の食材で、お祝い事やお祭りでしか食べることは叶わなかった。

だが、ティアナは首を横に振る。

「いいえ。明日は毎年恒例の牛のお肉よ」

牛肉も確かに高級品だが、竜の肉に比べればそこまで高くはないので、レインは少しガッカリしたように肩を落とす。

「……やっぱり、竜のお肉は高いから駄目?」

「……違うわ。ただね、私は竜のお肉は好きじゃないの。それに……」

ティアナはちらりとレインを見た。

「?」

ティアナの視線の意味が分からず、レインは首を傾げて言葉を待つ。

「何でもないわ。とにかく、明日は牛のお肉よ」

「はーい」

「返事は短く」

「……はい」

少しだけ不貞腐れるように唇を尖らすと、ティアナはレインの頭を撫でた。

(姉さんは、竜のお肉を食べたことがあるのかな?)

姉の口には合わなかったのだろうか?それとも、固くて食べにくいのだろうか?

そんなことを考えているレインを見ながら、ティアナは悲しそうに目を伏せる。

「……その代わり、明日は良い物をあげるわ」

「ほんと?」

ティアナの「良い物」という言葉を聞き、レインは目を輝かせる。

もう竜の肉のことは頭から抜けたらしく、ティアナは可笑しくて笑った。

子供とは現金で単純。だが、そこが非常に愛らしい。

「ええ。……レイン」

ティアナは窓の外に視線を移す。

先ほどまで晴れ渡っていた空は、いつの間にか厚い雲に覆われていた。どうやら嵐が来るようだ。

「何?」

「今日は薬草を摘む予定だったけど、また明日にしましょう。嵐が来るわ」

「どうして分かるの?」

普通の雨と、嵐。どうやって見分けるのだろうかと首を傾げる。だが、ティアナは困ったように笑っているだけだった。


雷の音が響き、凄まじい量の雨がいっきに降り注いで大地を叩く。

風が吹き荒れ、川は溢れだし、草や花を巻き込んで流れていく。

沢山の物が流れる中、金色に輝く雫のような形をした何かが流れる。それは、意思を持っているかのように、真っ直ぐ川を流れていった。