日が登り始め、太陽の光がキラキラと水面を彩る。

「………」

下流の湖に来た男は、目的の人物が見当たらないことに眉を潜める。

もしや、湖の底に沈んだのだろうか?

けれども、卵は浮かんでいる筈だ。そう思いながら目を凝らしても、卵は見つからない。

湖の向こうには森しか広がっておらず、間違いなくここが川の終点だった。

(……あの娘)

恐らく、もう生きてはいないだろう。

怯えながらもそれを隠そうと必死にこちらを睨み、卵を守ろうと川へと飛び込んだ。

無謀なものだと思いながら、男は驚いた。子供と言うのは、ただ泣き叫ぶことしか出来ないと思っていたからだ。

(赤い髪に、赤い瞳。忌み子……)

あの髪色を見れば、一目で少女の待遇は分かる。恐らく恐れられ、迫害されていたのだろう。

だが、少女の瞳には強い意志が宿っていた。それに、迫害を受ければ、嫌でも心は荒んでいく。

けれども、少女にはそんな気配はなかった。

それは、少女は心優しい誰かに育てられたからなのか、少女の心が元々優しかったのか。

だが、考えたところで仕方がない。

卵はもしかしたら、少女が重石の代わりとなって一緒に沈めてしまったのかもしれない。

だとしたら、これ以上の捜索は無駄だろう。

「竜騎士。こんな所にいたのか」

竜騎士と呼ばれた男は、後ろを振り返る。

「……何か用か?」

「城へ戻れと命令があった。……卵は?」

「……無くなった」

嘘はついていないため、竜騎士はそう答えた。

「ふーん、ならいいか。……しかし、『竜騎士』っていう称号は皮肉だよな」

同僚の言葉に、竜騎士は無言で先を促す。

「俺はただの護衛兵だが、お前は竜の首を落とすのが仕事だからな。竜殺し、または竜狩りをするのが役目だ。騎士って言うと、守る者って感じだろ?」

だが、竜騎士の役目は城で飼育されている、役目を終えた竜の首を狩ることと、野生で龍が生まれないように卵を壊すことだ。

「そう言えば、この国のどこかに『龍の谷』ってのがあるみたいだが、本当だと思うか?」

野生の龍が沢山住んでいるというのは、物語の中でのお話だ。だから、竜騎士は信じていない。

「……城に戻るぞ」

「あ、待てよ」

背を向け歩き出した竜騎士に、同僚はやれやれと肩をすくめてから、後をついていく。

(お堅いというか……ほんと、読みづらい男だな)

気軽に酒でも飲もうなどと誘えないタイプだ。

(まあ、そもそもこいつまだ成人してないらしいけどな)

確か、城で最年少でありながら、竜騎士になった男だと記憶している。

だが、正確な年齢は不明だ。子供でないことは確かであるが。

そんなことを考えながら、同僚はやたら眩しく光る太陽に目を細めた。