ぐるぐると、水の中を回りながら、レインは川に流される。

勢いで飛び込んでしまったが、ろくに泳げずなすがままだった。

(……苦しい……)

それでも、腕の中の卵は離さず、抱き締めたままだ。

(私……守ってあげないと……この子……を)

時々上へと押し上げられ、その時に酸素を吸い込むが、一瞬のことなので、また水の中へと沈み、息が出来ない。

(……息が……)

口を少し開けただけで、大量の水が流れ込み、咳き込んでも、また水が入ってくるという悪循環を繰り返し、レインの意識は遠のく。

すると、頭の中にティアナとの日々が流れる。

走馬灯と言うやつだろうかとぼんやり考えながら、記憶の扉を開ける。

『姉さん、龍と竜って何が違うの?読み方はどっちも「りゅう」なんでしょう?』

昔、姉に龍の違いを聞いた。

『こっちの「龍」は、翼をもった高度な龍のことよ。龍の能力が高ければ高いほど、火を吐くこともできるし、色んな動物にも変身できるの。後、頭も凄く良いから、龍の中には人の言葉を話せる龍もいるわ』

レインを膝の上に乗せながら、紙に書かれている文字を指差す。

『じゃあ、こっちは?』

シンプルな字の竜を指差すと、ティアナは少し悲しそうに眉を下げた。

『こっちは、翼の無い龍のこと。勿論、火も吐かないし、変身もできない。知能も低いから野生の動物とあまり変わらないわ。この竜は角や鱗、爪や牙などを採取し装飾品や武器を作るために使われているの。後は、食料として飼育されているわ』

『お祝いの時に、村の人が火を囲んでお肉を焼いてるよね?あれが竜のお肉?』

レインの問いかけに、姉は頷く。

『そうよ。竜のお肉はとても貴重で最高級品と言われているから』

『じゃあ、いつか私も竜のお肉食べられる?』

『……そう……ね……』

言葉を濁し、ティアナは視線を反らした。そして、ポタッと涙を溢した。

『姉さん?』

『え?……あ、ごめんなさい』

『どこか痛いの?』

レインの心配そうな声に、ティアナは涙を拭く。

『何でもないわ。何でも……ないのよ』

『………』

レインはティアナの頭へと手を伸ばした。

『レイン?』

『よしよし。痛いの痛いの飛んでけー!』

ティアナの頭を撫でてから、明後日の方向へと手を振る。

『……ぷっ。ふふ!レインったら』

『良かった!姉さん笑った!』


(…………姉さん)

視界が暗くなり、レインは卵を手放し流された。

放り出された卵は、そのまま深く沈む―かと思われたが、卵はレインの後を着いていくように流れていった。

そして、いっそう深い所へとレインは流され、そのまま沈んでいく。

しかし、レインの胸元から出ていた横笛が青白い光を放つと、レインを包むように大きな泡ができ、湖の底の壁に空いている穴へと入っていく。

そして、レインを包んだ泡と卵はどこかへ流されていった。