月白国より遥か南にある村、「白夜村(びゃくやむら)」。

そこには、赤い髪の少女がいた。

「……姉さーん?姉さーん??」

「こっちよ。レイン」

「何してるの?ティアナ姉さん」

赤い髪の少女はレイン。緑色の髪の女性はティアナ。

二人は、とても仲の良い姉妹だ。

「クックレオが、罠に引っ掛かってたから、助けてあげてたのよ」

やれやれと言って、ティアナは木の隙間から黒いカラスを引っ張り出した。

「クックレオったら」

「ガアー!ガアガア!」

翼をバサバサと動かすクックレオを、ティアナは抱き抱えて木から降りる。

「ほら、お行き。もう引っ掛からないでよ」

バサバサと忙しなく翼を動かし、クックレオは空へと羽ばたく。

「さて。クックレオも助けたことだし、仕事しましょうか」

「うん!」


レインは、ティアナと二人だけの家族だったが、ティアナが愛情を沢山注いでくれたおかげで、寂しくはなかった。

レインは、他の子供達のように遊ぶより、姉のティアナの仕事を手伝うのが好きだった。

何故なら、姉は薬剤師で、レインも姉のように薬剤師になりたいと思っていたからなのだ。

「……姉さん」

「ん?」

薬草を混ぜながら、ティアナは相槌を打つ。

「村の人達が、私のことを嫌いなのは、私の髪のせい?」

この村―正確には、この国では、赤い髪は忌み子の証と呼ばれており、人々から嫌悪されていた。

ティアナは、レインを見下ろす。

「……だったら私、赤い髪になんて生まれたくなかった。姉さんみたいに、緑色の髪だったら良かったのに」

「あら?どうして?レインの髪はとっても綺麗で素敵なのに」

ティアナは優しい声で、レインの髪へと手を伸ばす。

「貴女の髪は、宝石の色。リンゴのように可愛らしい色よ。……誇りを持ちなさい。貴女は自慢の妹なのよ」

「……」

優しく温かい姉の手が、髪をするすると伝っていくと、レインは目の前がボヤける。

姉の言葉は、いつだってレインの心の中に響いた。

「姉さん!」

レインは姉に飛び付くと、温かい体温に身を埋める。

「姉さん。大好き!本当に大好きだよ!」

「私も……大好きよ」

抱き締め返したレインの体の小ささに、ティアナはそっと唇を噛み締めた。