「………うん」


「悔しければ遙音にでも喧嘩売って来い。松生絡みなら買ってくれるだろ」


「いやあの、喧嘩売って来いって言い方もどうかと……」
 

咲桜が口を握す。そうか?


「咲桜は負けないよ。何にも」
 

髪で頬を撫でるように掬うと、咲桜は何度も瞬く。


「ま。俺くらいには負けてほしいものだけど?」
 

いつもいつも咲桜には負けっぱなしだから、たまには咲桜の心臓に負担をかけてみたい。


「……負けっぱなしな気しかしません」


「そうか? 俺の方こそ連敗な気がするけど」


「……そうなの?」


「さてな」
 

咲桜の中では俺に負けた記憶があるのか。


詳しく訊いてみたいところだけど……。


「……お前は日義のときもそんな風になんのかな」
 

咲桜の髪を手で梳きながら、ぽつりとそんなことを言った。
 

咲桜が、あっと何かを思い出した顔になった。


「――流夜くん、ちょっと座ってください」


「うん?」