最後はわざとらしい口調で言って、廊下の方へ歩き出してしまった。


戻れる位置? そんな場所があってももう俺が選ぶのは来桃のいる世界だけだ。


俺はその背を追った。


「咲桜とは華取氏を通じて知り合ったとかなのか? いつから?」


「……なんでそんな話をせねばならん」
 

不機嫌の塊みたいな返事の神宮。


お互いの秘密は掌中(しょうちゅう)。それでいんだよな? 


なんとなく――共犯者、成立?


「神宮先――……流夜? もしものときのアリバイ作りはよろしく?」


「……お互い様でいいんなら」


「そりゃ勿論」


「アリバイは崩す方が得意なんだがなー」


「え? ……あの、ほんとなんなんだ? 流夜は」
 

アリバイ崩すだの弟のやり口だの……知るのが怖いけど、だからこそ知りたい。


「さあ?」
 

うそぶくように言って、流夜は先を歩く。
 


――流夜が教師をしていた理由、そしてその正体と、とてつもなく冷えた眼差しをするわけを俺たちが知ってしまうのは、秋を迎えてからのことだった。