「父さん?」
 

咲桜が不思議そうに首を傾げた。


「うん。なかなかお似合いだと思って」


「―――っ⁉」
 

在義さんの言葉に、咲桜が思いっきり息を呑んだ。


……どうしたんだ? 俺も不審だ。


硬直した娘を愉快そうに見ながら、在義さんは俺に分厚いA4サイズの封筒を押し付けた。


「……これは」


「うん、千歳(ちとせ)のやつ」


「………」
 

彼女の父親に嬉しいこと言われたと思ったら、直後に突き落とすんだからなあ。


と言うか、これの所為でちょっとお疲れなんだろう。


その所為で思考回路もお疲れなんだろう。
 

けど、これは咲桜を関係なしに俺がやるべきことだ。


「見ておきます」


「そうしてくれ。咲桜、流夜くんの料理の腕はあがりそう?」


「―――ぅえ⁉ あ、うん!」
 

咲桜が正気を取り戻した。


在義さんが俺に嫌がらせをしているのは承知しているから、さっきの言葉は衝撃だったんだろう。


最近の在義さん、嫌がらせと認めのふり幅が大きいんだよな……これも千歳の所為か。
 

咲桜は慌てて肯いて、夕飯の最後の準備にとりかかった。