「いらっしゃいませー。あ、流夜久しぶりー」
カウンターの奥からかかった声。
柔和な笑顔を見せる男性だった。在義父さんよりは年若いだろうか。
「はい。咲桜、霧原剣(きりはら つるぎ)さん。蒼の知り合い」
「はじめまして! 華取咲桜です!」
「はじめましてー。流夜の彼女?」
「そう。恋さんもこっちだって蒼に聞いたんだけど」
どうぞどうぞ、と剣さんはカウンターの前の席を勧めてくれる。
外に書かれていたオープン時間からまだそう経っていないからか、店内にお客さんはいなかった。
「あ、うん。レン―、お客さんー」
剣さんがカウンターの奥に声を飛ばすと、「今行くー」と返事があった。
「待たせてすまない。――っと、流夜か。それと……」
私たちを見るのは、タブリエエプロンに長い黒髪を首の後ろで束ねた、長身の――。