「なんで謝る。先に手ぇ出したのは俺だぞ?」


「あの、だから……」


「まあ、すぐに浮気されんのが目に見えてるが」


「なんで! あるわけないでしょう!」


「……じゃあ気を浮つかせたら何かしてもらおうか?」


「なんでもどうぞ!」
 

そんなことあるかと憤慨する私を横に、流夜くんは楽しそうだった。


着いたのは城葉都市を出てすぐの――木造の家だった。


「どなたのお家?」


「いや、カフェ。『From Moon』って、ほら書いてあるだろ?」


扉に、そう書かれた看板が掲げられている。


「蒼の親戚がやってるんだ」


「それでご挨拶に?」


「そういうこと。入ったら一応身構えておけよ?」


「? うん」
 

なんで身構えるんだろう。


疑問に思いつつ、流夜くんの後をついてお店に足を踏み入れた。


鳴ったのは風鈴だった。