だが――。


「待て、リック」


今にもこちらへと飛び掛かってきそうなリックを制したのは、他でもないエドガーの声だった。


「今は、捕らえる必要はない」


「しかし……っ」


リックの反論は、エドガーの一睨みで喉の奥に飲み込まれた。この冷徹な王子は、血気盛んな側近を視線だけで操れる力を持っているらしい。


(今のうちに……)


何がどうなっているのか分からないが、とにかくクロウは捕まらないらしい。エドガーの気が変わらないうちにと、ジルはクロウを連れて馬車着き場の方へと駆け出した。


物言いたげなダークブルーの鋭い瞳に、感じたことのない胸騒ぎを覚えながら。