人狼王子と獣使い少女

四十歳前後の胸板の厚い大男が、彼に殴られたせいで頬が真っ赤に腫れているクロウに、忌々しく食ってかかる。


険しい形相の男をクロウは呆然と見ていたが、やがてにこっと涼やかな笑顔を浮かべた。


「そんなにイライラしないでも、すぐに出て行きますよ」


優しくて絶対に怒ることのない、呆れるほどにいつものクロウだった。ところがクロウのその態度は、男には自分を小馬鹿にしているように見えたらしい。


「なんだと……? てめえ、喧嘩売ってんのか? ヘラヘラ笑うんじゃねえ!」


男の拳が、もう一度クロウの頬を張る。


「もうやめて……!」


ジルは慌てて男の背中にしがみついたが、あえなく振り払われてしまった。