人狼王子と獣使い少女

それからジルは、クロウとともに言付かった買い物をするのに大忙しだった。せわしなさが、獣人に対するひどい扱いへの怒りを忘れさせていく。ジロジロともの珍しげに見られるのにも、だんだん馴れてきた。


一通りの買い物を終え、大荷物を手にクロウとともにバザールを歩んでいたジルは、ある店の軒先にキラリと光る何かを見つける。それは、アイスブルーのガラスで装飾された金色の髪飾りだった。


「キレイ……」


まるで、金色の髪にアイスブルーの瞳を持つクロウのようだ。そんなことを思いながら、雑踏の中で立ち止まり惚れ惚れと髪飾りを見ていると、


「それ、欲しいの? 買ってあげようか?」


背後から、クロウがにこやかに聞いてくる。


はっと我に返ったジルは、慌ててブンブンと大仰に首を振った。


「そういうわけじゃないの、綺麗だなって思っただけ」


大事なお金を、自分のためなんかに使ってはいけない。ジルは慌てて否定したが、微笑むクロウはそんな彼女の心の内まで全てお見通しのようだ。そして、髪飾りを手に取る。


「大丈夫。父さんから預かった金じゃなくて、僕の金で買うつもりだから」


「いいよ、そんなの! ほら、私なんかよりフローラになにかお土産買ってあげた方が……」


「ジルは、僕にとっては妹みたいなもんだ。兄貴が大事な妹にプレゼントを贈って、何が悪い?」


澄んだ目で、クロウは言い切った。”妹”ときっぱり宣言され、今更のように胸が痛い。ジルは言い返す言葉を失って、クロウを見つめ返すことしかできなかった。






すると、辺りが突然騒がしくなる。バザールにごった返す人々が小さな歓声を上げながら、大通りに視線を向けはじめた。


「見ろ、警備隊の巡回だ!」

「先頭にいるのは、エドガー王子だわ! ああ、なんて凛々しいお姿なの……!」