「取り締まりが厳しくなったって、どうして……?」


「獣人嫌いの王子が、バルザックの監視者になったからね」


「獣人嫌いの王子……?」


「そう。第一王子の、エドガー王子。何でも剣技に長けていて、若くして国の兵の総指揮も任されているんだとか。頭もいいらしくて、国民からの信頼も厚く、三人いる王子の中で一番次期国王の期待が高まってるそうだよ。そんな人が獣人を抑圧するように指示したら、そりゃみんな従うよね」


まるで他人事のように、クロウは言う。







「そんなの……、納得できない」


悔しさのあまり、ジルの足が止まる。


もしもそのエドガー王子とやらが本当に王になってしまったら、獣人はどうなるのだろう。最早町に出ることも、叶わないかもしれない。里を追われ、最悪の場合は捕獲なんてこともあるのではないだろうか。


雑踏の中に佇むジルを、クロウは振り返る。


そして、いつものように綺麗に笑って見せた。


「いいんだよ、ジル」


クロウの手が、ジルの頭を優しく撫でる。


「僕達は、それでいいんだ」



「でも……」


「獣人は、決して危険な人種じゃない。友好的で、争いを好まない。それを人間に分かってもらうには、僕らはこうやって時が来るのを待つしかないんだ。憎んではいけない。いつか分かり合える。そう信じることが、一番大事なんだよ」