馬車に揺られること五時間。昼を過ぎた頃、二人はようやく王都バルザックに到着した。


公営の馬車着き場に馬車を預け、バザールを目指す。店のずらりと並んだ通りはひっきりなしに人が行き交い、商人たちの声が響いていた。人々の活気と熱気で、町の空気が煮えたぎっている。


世界一と名高い都を見下ろすように建つ白亜の城は、この国を統治する王の住むシルディア城だ。幾重にも連なった三角塔に、厳重な要塞。煌めく湖の向こうに悠然とそびえる様は、この国の繁栄を物語っていた。






道行く人が、ジルとクロウにヒソヒソと視線を送っている。獣人である、クロウを見ているのだ。それからおそらく、獣人と一緒にいるジルのことも。


それは明らかに好意的なものではなく、視線が合うとサッと逸らされたり、逃げるように道を開けられたりする。不慣れなジルは、幾度もたじろいだ。

「クロウ……」


「ジル、気にしないで」


まるで何てことないように、クロウは言う。実際幾度もバルザックに出ているクロウにとっては、慣れっこなのだろう。


「ここ数年で、獣人の取り締まりがいっそう厳しくなってさ。取って食ったりしないのに、失礼だよなあ。食べるなら、人間よりももっとうまそうなもん食べるのにね」


冗談を口にするクロウは、ジルを安心させようとしているのだろう。


だが、ジルは素直に”そうだね”とは言えない。なぜなら、間違っているからだ。


クロウは確かに鋭い牙と爪を持っているが、それを凶器に変えたりはしない。綺麗で、家族想いで、ちょっと抜けてるところがあって、恋人を大切にしている……普通の男の人なのに。