「おう。サポートよろしく」

 テーブルに飲み終わった空の缶を置き、背もたれに体を預けると安物のソファに顔を歪めながら二・三度、深く息を吐き出してゆっくりと目を閉じる。

 すると、男の体から白いもやが立ち上り、頭上から何かが抜けていく様子を青年はじっと眺めた。

 白いもやの塊(かたまり)は人の形になり、青年に軽く手を上げる素振りをしたあと、壁を通り抜けて町を見渡し、目指す方向に飛んでいく──

 青年は微動だにしない男の体を見やり、十五センチほどの細長い桐の箱から線香を一本取り出した。

 ライターで火を付けると立ち上った小さな炎はすぐに消えて、上品な伽羅(きゃら)の香りが部屋を満たしていく。

 代表的な香木の一つである沈香(じんこう)の、特に質の良いものが伽羅と呼ばれる。ほぼすべての沈香属はワシントン条約に指定されている。