「あなた方は、何をしていたんですか?!」

「「すみません」」

あの後、一度も足を踏むことなく踊れたサンは、サクのレッスンをサボらせてしまったとに罪悪感を感じ、一緒に謝りに行くと言った。

サクは自分が勝手にしたことだからと遠慮したが、サンは顔を曇らせたままだったので、二人で仲良くお説教をされることにした。

だが、サクは説教の半分を聞き流していた。

「サク様?聞いているのですか?」

「聞いてます」

「なら、耳を塞ぐのはお止めなさい」

ルーナの甲高い声が、耳に指を押し込んでいても聞こえ、サクは顔をしかめる。

「全く。もうよろしいです……サン様にはまだお話し―」

「そうですか!では、失礼します!」

ルーナの言葉を、最後まで聞かず、サクはサンの腕を掴むと、そのまま逃走する。

「なっ!お待ちなさい!!」

「サ、サク?駄目よ!ルーナ先生怒ってるわ」

パタパタと音をたてながら廊下を走る二人を、途中すれ違った使用人は何だ何だと振り返るが、サクは構わずサンを連れていく。

「うん、きっとまた小じわが増えるね」

「クスッ………あ!」

思わず笑ってしまい、サンは慌てて口に手を当てる。

「やっと笑った!」

「え?」

「サンの笑った顔、久しぶりに見れた」

走るスピードを緩め、サクはサンを自室へと招く。

「さ、どうぞ」

「うん……」

サクはベットに座ると、ポンポンと左隣を叩く。座れという意味だと分かり、サンは大人しく隣に座った。

「サンはさ。相手に落ち込まれたり、ガッカリされたりするのが嫌だから、一生懸命頑張ろうとして、それで口数も減ったし、笑うことも少なくなった」

サクの言うとおり、サンは失望されたらとびくびくしていた。

「でもさ、失敗してもいいんだよ。だって僕もよく失敗するもん。でも次期当主だから多目に見られてるだけだし、僕が次期当主じゃなかったら、サンと同じ扱いされてたかもしれないし」

教師達にとって、所詮は当主に添えるだけの存在。父も権力のことだけ考えて、母はただ贅沢な暮らしが出来ればいいだけ。

「僕にはサンがいればいいよ。サンがいつかお嫁に行っちゃうまで」

いつか本当に自分から離れてしまうその日まで、自分の側にはサンがいればいい。

「だから、失敗を恐れないで。笑ってよ」

「……ありがとう」

サクの優しさが、サンの心に染み込んでいく。すると、涙が溢れそうになる。

「うん!サクがそう言ってくれるなら」

(私は、笑っているわ)