ドッペル少年少女~生まれる前の物語~

フギルに慰められ、サクは耐えきれなくなったかのように泣きわめいた。

「お泣きなさい。存分に」

(サン……サン!僕の………大切な)

「くっ、うう……うぁ」

流れてしまえばいい、すべて流れ落ちてしまえばいい。

そしたら、きっとまた笑えるから。


(?……サク?)

胸の奥がざわつく感覚に、サンは言い様のない不安を感じた。

「サン様。準備はいいですか?」

「ええ」

父が来れず、フギルもいないので、サンは一人でバージンロードを歩く。

招かれた来賓達は、品定めをするようにサンを見ていた。

その視線に負けないよう、サンはただ前を見て歩く。そして、神父の前まで来ると、隣に並ぶエーベルをそっと見上げた。

エーベルは相変わらずこちらを見ない。

神父の柔らかな声が流れ、愛を誓う場面。

「汝サンは、この男エーベルを夫とし、病める時も健やかな時も富める時も貧しい時も彼を愛し、敬い、共に生きることを誓いますか?」

誓います。その言葉を一言言えばいい。なのに、サンの心は引き裂かれそうなほど痛い。

「……おい」

小声で咎めるエーベルに、サンは俯く。

(……言わなきゃ………でも)

「……私は、誓いま―」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

不意につんざくような悲鳴が上がり、サンとエーベルは後ろを振りかえる。

すると、教会の入り口から火の手が上がっていた。

「火事だぁぁぁぁぁ!!」

「おいどけ!火に巻かれちまう!」

人々は慌てて教会の外へ逃げ出し、神父もサンとエーベルを置いて出ていく。

「ふんっ、こざかしい真似を」

エーベルは憎悪のこもった笑みを浮かべている。

「エーベル様、ここを出ましょう」

サンがエーベルを促すが、エーベルはサンを突き飛ばした。

「きゃっ!」

背中に衝撃が走り、サンは倒れる。

「お前はもう用済みだ。代わりなどいくらでもいるからな」

それだけ言い残すと、炎の向こうへと消えていく。

「まっ―!ごほっ、ごほっ」

追いかけようとしたが、煙が一気に充満し、サンはむせかえる。

「げほっ、げほ………っ逃げ………なきゃ………っ!ごほっ」

息が上手く出来ず、サンの意識は薄れていく。

(……助けて………サク……)

純白のドレスは炎に抱かれる。このまま焼け死ぬのだろうか?

(…………サ…………ク………)


頬を伝い流れる雫が、地面に落ちると蒸発して消える。

いつの間にか千切れたネックレスが、床に転がっていた。