ドッペル少年少女~生まれる前の物語~

答えないサクに、フギルは手を伸ばした。

ピクッとサクの肩が小さく跳ねる。殴られるのか叱られるのか、そんな恐怖が湧き、目をつむる。

だが頭の上に優しく置かれた体温に、サクは恐る恐る目を開けた。

「お泣きなさい。涙と共に流してしまうのです」

「フギル……先生?」

「ワタシも昔、結ばれぬ相手に恋をした。けれども、私は彼女のために身を引きました。何故だと思いますか?」

フギルに問われ、サクは力なく首を降る。フギルの想いなど、フギルにしか分からない。

「誰よりも幸せでいてほしいから。添い遂げることだけが愛とは限りません。ワタシは彼女が微笑んでいる姿が好きだった。ワタシ以外の人といる彼女は、とても幸せそうでした」

懐かしそうに、フギルは目を細めた。

「ワタシはあの笑顔を見て、身を引いて良かったと思いましたよ。しばらく胸は痛みましたがね」

「…………」

「サク様はまだお若い。それに好きになった相手が、実の妹で貴方様の片割れ。きっとワタシには想像も出来ないほどお辛いでしょう。ですからお泣きなさい」

ポンポンと頭を撫でられ、サクは目の前がぼやけた。

(何で今さら優しくするんですか!)

いつも厳しい目で自分を見ていた、大嫌いだった教師が、まるで父親のように暖かく包み込んでくれる。

実の父にさえ、サクは頭を撫でられたことはなかった。

「………フギル先生は………僕が嫌いなんでしょう?」

「?そう見えましたか?」

首を傾げるフギルに、サクは涙を乱暴に脱ぐって見上げる。

「だって!いつも僕のこと疎ましそうに見てたじゃないか!小さい頃からずっと!!」

怒鳴るように叫ぶと、フギルはどこか困ったように眉を下げる。

「ワタシはサク様を、息子同然に思ってお育てしたつもりですが?勿論、サン様は娘同様に思っております」

「……今さら、信じられないよ」

「……確かに、ワタシの態度は良くありませんでしたな。貴方様の教育係になった日。ワタシは旦那様から、お二人のことを聞きました」

フギルは語った。サクの父が息子と娘になんの期待もしてないという話を聞かされ、フギルは思った。

何がなんでもサクを立派な当主として育て、サンを立派な令嬢にすると。

しかし、サンは女であるため自分に教えられることにも限界があり、フギルはルーナにサンの教育を頼んだ。

「そうだったんですか」

あんなに毛嫌いしていたフギルの、本当の姿が見えた気がした。