ドッペル少年少女~生まれる前の物語~

「サン様。お綺麗ですわ!!」

純白のウェディングドレスに身を包み、使用人達に囲まれたサンは、一生懸命笑って見せる。

今の自分は、回りから見れば「幸せな花嫁」なのだ。ならばそのように振る舞わねば。

「ありがとう。……サクは?」

「それが……具合が悪いとのことで、ずっと部屋におります」

「せっかくのサン様の結婚式だというのに、残念ですわ」

使用人達の言葉に、サンは目を伏せる。

「そう。なら仕方ないわ!無理に参加して具合が余計に悪くなっては大変だもの」

(笑うのよ。私が笑っていないと)

「さっ、行きましょう」

サンとエーベルの結婚式は、ベテレン町という隣町にある教会で行われる。

馬車に乗る時、サンは胸の前で手を握りしめる。サクから貰った花の指輪を、押花のように潰して、それをネックレスにしてもらったものがここにある。

それだけで、少しは心が落ち着く。

(サク、ありがとう)

心の中でお礼を言うと、サンは不意に視界がぼやけた。

「サン様?」

「え?……え?あ、やだ。私ったら」

使用人の声にハッとし、サンは頬を伝う涙に気づくと慌てて拭う。

「もう、式の前に泣かれなくても」

「そ、そうね!私ったら………馬鹿ね」

無理矢理口端を上げて笑って見せる。けれども、その笑顔は随分と不恰好だった。

(私………馬鹿ね)


「サン……」

サンが馬車に乗るのを、サクは自室の窓のカーテンからそっと見ていた。

幸い後ろ姿で、サクにはサンが泣いてる姿が見えなかった。

けれども、とても胸が痛んだような気がした。

「サク様?」

コンコンとノックの音が響き、サクは顔をしかめる。

「今は誰とも会いたくないんだけど」

「失礼します」

サクの言葉など聞こえていないかのように、フギルが入ってきた。

「何の用ですか?」

「旦那様からのご命令です。お加減がよろしくない旦那様の代わりに、サク様がサン様の結婚式にご出席なさるようにと」

その言葉に、サクはあからさまに眉をひそめる。

「申し訳ありませんが。僕も具合が良くありませんので。家のためなら、母様だけでも問題ないでしょう?」

「……怖いのですか?」

「………何がです?」

いつも通りのフギルの冷えきった瞳に、サクは苛立ちを覚える。

「サン様が、サク様のものには永遠にならない。それをお認めになるのが怖いのでしょう?式に参加すれば、嫌でも自分の心と向き合わねばなりません」

「……っ」

図星だった。