魂の記憶を見る時は、誘導する人が必要だと書いてあるが、サクは一人でソレを実行することにした。

本をもって図書室の入り口近くにある長椅子へと仰向けになり、全身の力を抜くように深呼吸を繰り返す。

そして、今から過去へと記憶を振り返る。それも出来るだけ細かく、鮮明に。

サクは記憶力は良い方なので、丁寧に記憶の扉を開けていく。初めてダンスパーティーに参加した日のことから順に。

逆再生されていく。記憶が過去の階段を降りていく。二人でダンスの練習をした日、初めて気持ちを自覚した日、花冠を編んでもらった日。

逆再生を繰り返すと、ドクドクと鼓動の音が聞こえる。

否、これは細胞が引き裂かれ戻る音。

二人分の細胞の泡は形を変え、二つの光は別々の方向へと消えていく。

まるで引き裂かれたように。離ればなれになっていく。

『僕は……どこにいるの?』

幼い子供の声が聞こえ、サクの意識もぼんやりとする。

すると、今度は辺り一面が光で覆われ、それが収まると、金髪の男が立っていた。顔はボヤけていてよく見えないが。

男の前には、同じく金髪の女性。お互いに銃を突きつけあっている。

『どうして、こんな真似を』

『私の婚約者を殺したのは、貴方ね』

女性は後ろ姿なので、顔が見えないがその声は誰かに似ていた。

『私、貴方を愛してた。でも、私は私の役目を果たすわ』

『どうしてだ!俺と君はどうして愛し合えないんだ。君は家のために、好きでもない男と結婚するつもりか?!』

悔しげな男の声も、サクには聞き覚えがあった。

『それが、私の役目だから。だから、貴方は私以外の人と、幸せにな―』

最後まで、彼女の言葉は続かなかった。乾いた銃声の音が阻んだのだ。

胸を撃たれた彼女は、そのまま前へと倒れこんだ。そして、その体を男は抱き止める。

『………結ばれないのなら、最初から出会わなければ良かった。あるいは、血の繋がった兄妹であれば』

男は顔を上げる。青い瞳からポタポタと、雫が流れ落ちていた。

「!あ…………ああ………」

不安定だった世界が鮮明になる。男の顔がハッキリと写し出され、サクは息を飲んだ。

『ステラ。生まれ変わっても君と一緒だ。もし、望むことが出来るなら』

男の顔。それは、どことなくサクと良く似ていた。

『兄妹として出会おう』

その言葉と共に、銃口を頭へ向けた。

「止め―」

サクの言葉を阻み、乾いた銃声の音が聞こえた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」