千一夜物語

神羅に惚れていることを自覚すると、ますます会いたくなって両手で顔を覆って俯いていた。

たかだか十数年生きただけの小娘に参ってしまっている自分が恥ずかしく、またどうにかして自分のものにしたいけれど、それをどうやって切り出そうか――考えに考えて頭痛を起こしていた。


『やっとお話ができます』


俯いていた黎に声をかけたのは、先程澪と共にやって来た黒縫だった。

黎はようようと顔を上げて、遠野で仲良くなった黒縫に苦笑した。


「こんな形で再会するとは思っていなかった」


『私もです。まさかあなた様が…黎様と仰るのですね、あなた様が澪様の許嫁だとは』


「澪はどうしている」


『旅の疲れが出てお休みになられています。ですからようやくお話ができているのです』


澪を気に入って、嫁にしてやってもいいと思っていた。

だが心からまだ好きだとは言い切れず、こんな気持ちで澪と接する勇気のない黎は、傍に伏せた黒縫の虎の身体を撫でてやりながら問うた。


「ここまでよく来れたな。二人旅だったんだろう?」


『ああいえ…道中護衛についてくれた者が居ましたが、いつの間にか居なくなったんです』


「そうか」


「黎様、誤解をお解きになって下さい。澪様もお喜びになられます。心に誓った方とはあなた様のことなのですから』


「…それについてはもう少し待ってくれ。というか澪が気付くまでこのままでいい。…少し考えたいことがある」


黒縫は首を傾げたが、主の澪の命令が一番大切で、始終傍に居て守り、余計な口出しはしないことこそが主従の仲。


『分かりました』


「ん、頼んだぞ」


だが黒縫は内心思っていた。

何故互いに気に入っているのに真実を明かさないのかと。


獣の黒縫には理解できずにいた。